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彼は一体何者なんだろう。
そう考え出したら、なんだか急に昨夜の十万円が恐ろしくなってきた。定住していない学生が、十万もの大金をポンと出せるだろうか。あのお金はどうやって工面したんだろう。バイトでもやっているのか?
今更ながら、私は彼のことを何も知らない。
テレビを見ていたたろちゃんが、ふとこちらに視線を投げた。意図せず目が合ってしまう。たろちゃんは途端に嬉しそうに目を細めた。
「な、何……」
「んーん。千春さん、寝起き姿がセクシーだなと思って見とれてた」
「なっ! ……何言ってるの」
いけないいけない。危うく騙されるところだった。こいつは女の子を鬱陶しいから捨てるような男だ。ほだされてはいけない。
「でもいーのかなあ」
たろちゃんは喉元をごくりと鳴らしながらビールを飲み切った。
「……なにが?」
「今日、仕事じゃないの?」
「……え」
彼が指さす先を見て、息が止まる。現在八時。とっくに病院に着いてなきゃいけない時間だった。
「な、なんでもっと早く言わないの!」
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