悪魔は愛の言葉を囁く

12/14
3555人が本棚に入れています
本棚に追加
/519ページ
 たろちゃんの瞳に私が映る。時が、止まる……。  たろちゃんは、ゆっくりと口を開いた。 「俺さ……子供ができたらいっぱい遊んでやりたい。仕事がない日は絶対子供と過ごすって決めてるんだ。  男の子だったら、一緒にサッカーでもキャッチボールでも付き合ってやりたい。  女の子だったらたくさん甘やかして、パパ大好きっ子にしたい。  勉強は教えられないけど……それ以外だったらなんでも叶えてやりたい。いろんな所に連れて行って、たくさんの思い出を作りたい。  俺が……貰えなかったものを……子供にはたくさん与えたいんだ」  彼の瞳から涙が零れる。なんて綺麗な涙なんだろう。  私はそっと、彼の手を握り返した。 「家族を作るっていうのが……ずっと夢だった。  家に帰ったら既に明かりがついてて……中からは子供たちの笑い声が聞こえる……。  夜ご飯のいい匂いが漂ってきて……それで……──」  彼の震える手が、私の頬に触れる。 「──それで……その中心には、十年後も二十年後もその先も……君がいてほしい。笑顔で『おかえりなさい』って言ってくれたら、それだけでいいんだ。それで十分なんだ。  ──結婚しよう、千春」
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!