プロローグ

2/3
前へ
/32ページ
次へ
 シャンパンの甘い香りが漂う披露宴会の会場は、思っていたよりも広かった。ドラマで見たそれよりは、どちらかと言えば日本アカデミー賞の授賞式会場の方が近い。白い模様を基調として華やかに飾られた豪華な会場の風景には気後れしてしまう。 「おぉ、裕稀じゃん。久しぶりー」  その顔を思い出すのに暫し時間を要した。数ある旧友の名前から、記憶が一つの名前を引っ張り出した。 「将大、久しぶり。8年ぶりくらいかな」  出会った当初、僕はずっと「ショウタ」と勘違いしていたが、本人から「マサヒロ」だと指摘されて、すごく恥ずかしかったのを覚えている。 「うわー、もうそんなにもなるんだ。早いねぇ、人生ってのは」 「じいさんみたいなこと言うな」  口ではそんなことを言っているが、実際のところは8年という時間の重みを実感していたところである。 「あ、裕稀じゃん、ヤッホー、久しぶりー」  派手に着飾ってこちらに歩いてくるのは、誰だっただろうかまったく思い出せない。 「叶恵、俺を忘れてるぞ」 「あんたは昨日も会ってるだろうが!」  そうだ。時任叶恵。好きな人にふられたショックで線路に飛び降りようとして、皆に慌てて止められた奴。 「相変わらず元気そうじゃない。それにしても、結婚だなんて、びっくりしたわ。時の流れって早いものね」  そう言いながら左手を口に当てている時任を一目見れば、彼女に驚く権利などないことがすぐに分かる。 「口調も考えもおばさん化したね」  自分だってさっきまでじいさんだったのに、よく他人のことが言えたものだ。 「ひどっ! 将大だって、もう顔がおっさん化してんじゃん。あれからだいぶ老けたね」  そう言いながら叶恵はけらけらと笑う。彼女に同感の僕も頷くが、二人とも僕のことなど見ていない。 「本日は、結婚パーティーにご出席頂き、誠に有難うございます。これより、二人のこれまでの軌跡を振り返ったスライドショーに移らせていただきます」  アナウンスが入り、次第に静粛になってゆく。会場は人でごった返していたが、前の方に小さく、マイクスタンドの前に立つ男が見えた。その奥に、新郎新婦が座っている。 「改めて、高城雅俊さん、美咲さん、結婚おめでとうございます」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加