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会場を拍手の嵐が包み込む。その黒い濁流に飲み込まれた僕は、必死にもがき、苦しんでいる。頬をスーッとつたっていった一筋の生暖かい何かが、音もなく空気に響いた。真っ黒な雫は、白で満たされた披露宴会の会場を薄く染めていった。夢、いや悪夢を見ているような感覚がする。
スクリーンに一枚目の写真が映された時、僕は美咲を見ていた。彼女の吸い込まれるような黒い瞳。僕は彼女に向き合えないまま、こうして大人になってしまった。ちゃんと自分の気持ちに素直になっていれば良かった。
後悔ばかりが押し寄せてきて、後には何も残らない。自分の想いに葛藤を抱き、霧に包まれた中で何とか理想を見ようとして、でも見えなくて。結局、彼女のために費やした時間は無駄なものとなり、努力は水の泡と消えた。いや、本当は、自分は努力など何もしていない。ただ浮かれて生きていただけで、利己主義を貫いただけ。少なくとも、僕が彼女に与えたものは、何もないと言えよう。
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