1、サムシング

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今日も耳鳴りが酷い。耳を塞いでもzzzaaa…という雑音が重たく響く。ああ、これではまるで滝の音だ。昨夜の雨のせいだろうか、聞き流していた通奏低音にさらなる子音が加わった。 zzzgggooo… 耳元でzzyugyoooと叫んでるみたいだ。ん? ジュギョー? もちろん気にしてる。最終学年だもの、夏休み前には教授のとこへ顔を出さないとって。でも身体が鉛のように重たい。それでも今日こそ行かないと卒業も危ういよね、留年からの中途退学コースだよね、嫌なら単位落とすわけには、うん、いかない。いかないから行かなきゃ。 心地よい夢の中に現実を持ち込んだせいだ。轟音はますます大きく主張する。まどろみからハッと我に返り目がぱっちり開いた。 行かなきゃ。今日こそ絶対。 起き上がろうとしたところで、鉛の腕まくらがガシッとロックをかけてきた。 「だーめ」 「でも、行かなきゃ授業、てかゼミもあるし、」 「俺がさびしくてもいいの?」 それを言われると気持ちが萎んでしまった。理生(りお)のことは好きだから、 「それはやだ」 返す言葉は決まってる。昨日も同じような会話があった。むしろ好き過ぎて繰り返し繰り返し非生産的な無限ループに陥っている。ならいっそ永遠に大学生だといいのにな。大人になるのは気が重い。 だからいつも、まあいっか、となる。まあいっか。明日考えよって。     
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