1、サムシング

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胸の内でこっそり探りを入れる、だけどもう、どんな顔も声も演技にしか思えない。込み上げてくるのは快の感覚ではなかった。身体の置き場が何とも滑稽でたまらない。それでもしがみついて抗わないのは私には確信がないから。 こんなにも、私は私自身に関与しなくていいのだろうか。 そうしてとめどない疑問からようやく解放されたあと、気の済んだ理生を体良くアパートから送り出すのに成功した。 その後そそくさと壁掛けのフックから摘んだのは麦わら帽子。目が細かくてしなやか、ラフィアで編まれたツバの広いデザインにリボン代わりの細い紐が巻きつけられている。プロバンスのお嬢さま風で可愛いと思うけど、ただのオブジェ。だって外に出ないんだもの。 昨日までは、ね。 よし。ワンピースを頭からふわりとまとい、鏡に向かって帽子を目深に被る。幾何学的に配置された小さなプロバンス柄を大きく翻し、自転車にまたがった。何かが駆り立てる。 だから行かなきゃ。学生らしくキャンパスへ。
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