2、空飛ぶシーラカンス

2/6
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
自転車専用信号が赤になる。ブレーキをかけ、ここで私は那珂村(なかむら)さんに電話をかけることにした。 左手に収まる端末は、手に取るだけでホーム画面を表示してくれる。2017年7月4日火曜日を親指一本でスライド。 彼女は学科内で唯一私を軽蔑した目を向けてこない女子なので、というより私には学科に話せる女友達がほとんどいないのだった。女子にして留年スレスレ、やっとこ三年になれたはいいがテーマが決まらない。四年進級は既に危うい、しかも原因が男。というキャラクターはこの学科の同性ウケがすこぶる悪いなんて、気づくのが遅すぎて。 那珂村さんなら課題が出ていれば教えてくれそうだ。浅ましくも私は学生という大人未満の身分にしがみついていたい。 「え? 休講? まじラッキー、寝坊して正解だね! 来週? 行く行く、行くけどって、えーレポート? やだーめんどくさい。じゃあノートのコピー、いやそこを何とか一生のお願いだから、一生に一度だけだよー(たぶん)、明日からはちゃんと行くしー、ほんとほんと」 那珂村さんにはもう少し真摯な姿勢を示してもよかったかな、と思わなくもない。ただ予期せぬ休講のせいで私は行き先を失ってしまい、目下の大問題はzzyugyoooではなくなった。 それに今さら真面目に振る舞うのは演技というもの。(むしろ那珂村さんに対して失礼でしょ)なんて理屈も喉元に待機している。     
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!