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肩に手を置かれた男の子は目を細め、前に座る女子生徒の背中を見つめた。それから、ひとつ先の背中も見た。身体に入っていた力を抜くと教員を見あげ、うなずき返した。
しかし、教員がいなくなった瞬間に彼は立ちあがり、教室の後ろの方へ歩いていった。
「おい、ちょっとこっち来いよ」
「は?」
「いいから来いって」
「どこに行くってんだよ」
彼らのまわりには生徒たちが集まってきた。睨んでいた男の子は相手の腕を強く握っていた。
「なんだよ、強士。まだ怒ってんのか? ――ああ、かわいいかわいい美以子ちゃんのアレについて言うのはマズかったな。悪かったよ。謝るからもういいだろ?」
ひそひそとした声がそこここから聞こえてきた。強士はずっと真顔のまま相手を見すえていた。
「強士は斎藤のことになるとすぐムキになるな。そんなに好きなのか? ま、だからブラスバンドになんか入ったんだもんな。音楽室でもいちゃいちゃしてんだろ?」
強士はつかんでいた腕を引っ張り、無理に相手を立たせた。自分でも馬鹿なことをしてると思ってはいた。でも、やめられなかった。ひそひそ声はずっとつづいていた。観衆は目の前で起こっていることに半分程度の関心を持ち、もう半分は関わりあいになりたくないと考えているようだった。
「強士、」と後ろから声がした。
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