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本編
梅林は小雨の中にある。
――1年ぶりだな……。
晴海は、傘の下から、梅の木々を眺めた。
その数、およそ、三千本。
堂々たる庭園である。
高校生の彼は、春休みを利用して、ここへとやってきた。新幹線と在来線を乗り継いで、県境を越えて来たのだった。およそ、3時間ちょっとの道行きである
人に会いに来たのだった。
そう、会いに来た。
しかし、本当のところ、会いたいのかどうか、判然としない。
晴海は、梅林の中を歩き出した。
目前にある梅を見ていると、心はふわり、1年前の過去へと立ち戻った。
1年前、3月の中旬のこと。
その日、高校入学を控えた晴海は姉に連れられて、この庭園にやってきた。
やってきて、放り出された。
詩吟――漢詩や和歌を節をつけて吟じるシブい芸能――を行っている姉は、この近くで大会が行われるので、その会場を車で下見に来たわけだった。それに同乗させられたのが晴海というわけである。
「どうせヒマでしょ」
その一言でもって、2時間のドライブに付き合わされた。
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