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「1年後の今日にしましょうか」
そう言うと、彼女は、相合傘からそっと外に出た。
いつの間にか雨は止んでいて、雲の切れ間から斜めに光が降っている。
「それじゃあ、またね」
簡単な挨拶を残して、後ろ姿を見せると、少女は走り出して、二度と振り返らなかった。
晴海は、少女と出会ってからきっちり1年後の今日、ここにやって来た。
彼女には会いたい気持ちと、会いたくない気持ちが、ちょうど半分ずつある。もう一度会って話がしてみたい、もっと彼女のことが知りたいと思う一方で、思い出のまま、梅の精だと思い見なしておきたい気もする。
ここまで来たのは、自分から約束したからだった。それを破るということは、彼女を裏切るということでもあり、あの日の自分を裏切るということでもある。それはできない。
あの日から1年が経って、晴海は変わった。もう女の子に振られても、あの時のように落ち込むことはない。同じように、彼女も変わっていることだろう。あの日、相合傘をした彼女はもうどこにもおらず、そこで待っているのは別人かもしれない。
――それでもいい……。
晴海は、決意を固めた。
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