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あの日、迷惑をかけたことを謝る。それだけでいい、と思い定めた。失恋したときに優しくしてもらって、きっとそれは彼女でなくても良かったのかもしれない。それでも、現に彼女によって心慰められたのだから、彼女でなくても良かったのかもしれない、とは実は言えない。彼女でなくてはならなかった。
この1年の間、彼女のことが気になり続けていた。心の中に彼女が棲んでいた。あの日取り戻した心が1年の間健やかであったのは、彼女のおかげなのである。その礼も伝えよう、と晴海は考えると、園に入ってから初めて晴れやかな気持ちになった。
千波湖に背を向けて、梅林へと向かう。
人は増えもしないが、かと言って減りもしないようである。ツアーガイドらしき人に率いられた高齢な一団をやり過ごして、入って来た東門の方へと戻り、梅林の外周を歩く。彼女がいるとしたら、出会ったところだろうか。北にある、「御成門」まで歩いて、そこから梅林の中へと入る。白難波、虎の尾、を見ながら歩いていくと、江南所無のもとに、一人たたずむ女の子の影がある。
少女に近づいた晴海は、
「待った?」
と傘を差しかけた。そんなことが自然にできる自分を不思議には思わなかった。
少女は、すっと傘の下に入ってくると、そのまま、晴海に抱き付いてきた。驚いた晴海は、
「高校、合格しました!」
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