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元気な声が上がるのを聞いた。目前には、彼女の澄んだ瞳がある。入試を無事突破したことはおめでたいことだけれど、この状況は恥ずかしすぎる。晴海は、にわかに鳴り始めた心臓の鼓動にせかされるように、彼女に向かって離れるようにボソボソと言った。
「ご、ごめんなさい」
少女は頬を染めると、パッと身を離した。
彼女に身を寄せて相合傘を作った晴海は、改まった。
「お礼を言いたいんだ。あの時はありがとう。何も聞かないでくれて。オレの傘に入ってくれて」
少女は笑顔でそれを受け止めたあと、少し目を細めるようにして、それだけですか、と尋ねてきた。
晴海はゆるやかに首を横に振った。さっき彼女に傘を差しかけた、そうして、今まさに彼女を同じ傘の下にしているというそのことが、彼女に対する自分の気持ちを明確に表していた。
「梅ソフトもおごりたいんだ」
「えっ!?」
梅ソフトは、梅味のソフトクリームで、ここ偕楽園の名物である。
目を見開いた彼女は、その瞳に困惑したような色を映すと、梅ソフトはちょっと苦手なんです、と答えた。
「克服すればいい」
「…………」
「じゃなければ、他のお菓子でもいいさ」
「いりません」
少女は、ぷいと横をむいたが、傘の下から出て行こうとはしなかった。それが彼女の気持ちを表していると考えてもいいのだろうか。たとえ、そうでなかったとしても、晴海の気持ちは変わらない。
「来年もここで一緒に梅を見てほしい。そうして、できれば、再来年も」
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