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2時間もかけてわざわざ下見に出る。それだけ詩吟に入れ込んでいるということもあるかもしれないが、彼女が、弟を思いやる姉であることも、晴海には分かっていた。
そのとき、晴海は、女の子に振られたばかりだった。正々堂々と告白したのだけれど、
「ごめんね、わたし、好きな人がいるから」
結果は見事に玉砕、長い間の片想いを終わらせることになった。生まれて初めての失恋である。これまで、ひそかに、テレビドラマや映画などで主人公が失恋して落ち込むシーンを目にするたびに、「女に振られたくらいでそんなに落ち込むことないのに」と、そのショックに関して??をくくっていたのだが、いざ自分がその目に遭うと、まるでこの世の終わりであるかのようなひどい鬱状態に陥ったのだった。
そうして下を向いて春休みを過ごしていたときに、姉に声をかけられたのである。姉は詳しい事情を訊くことはせず、弟を外に連れ出した。外は、晴海の気分にふさわしく雨が降っており、庭園に着くと、いくぶん弱くなったものの、やみはしなかった。
「じゃあ、わたしは会場を見に行ってくるから、ここで待ってな」
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