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そう言われて、晴海は迷いの時間を持たなかった。今さっき初めて会った見も知らぬ子に、しかも、女の子に誘われて、どうして躊躇しなかったのか不思議ではあったけれど、晴海は一も二もなくうなずいていた。
「じゃあ、行きましょう」
そう言うと彼女は歩き出す素振りをした。
晴海は、二人の上に傘を差したまま、彼女に歩を合わせた。
少し歩くと、門から入ってほぼ半周したところで、少女が、一本の梅に向かって、手を差し出した。
「これが月影です」
淡い緑色の花びらが、月光を受けたように見える。
「影は『光』の意味か」
晴海は、知識をひけらかした。古文の授業で習ったことである。勉強はそこそこできた。
「そういう意味だったんですね」
少女は、なるほど、と大きくうなずいた。
その様子を見て晴海は少し得意になったが、今から考えると、何度も来ていたのだ、彼女はおそらくそんなことは知っていたのだろう。知っていて知らない振りをしてくれていたのである。
橋のようになった小さな木の階段を上り降りすると、竹林が見えてきた。
「孟宗竹です」
静謐な雰囲気の竹林は、そこだけ時が止まっているかのようにも見える。
「竹の葉が高い位置で日光を遮ってしまうから、竹林内では他の植物は生えないって聞いたことある」
晴海は、またトリビアをひけらかした。
少女がやはり感動した風である。
「凄いです。いろいろなことを知っているんですね」
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