第四章 告白

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心地良い夏風を感じながら横浜横須賀道路をひた走る事15分――逗子へ到着。そのまま市街地を通り抜け、陽光に照らされ輝く海岸線に沿って突き進む。 ――今後の話は、海を見ながら話そう。 漠然とそのように思っていた菫。未だ直之からも今後の二人に関する話が無いという事は、きっと同じ事を思っているのだろう。 思えば直之とは、『過去』の話をする事が多くて、『未来』の話をする事が少なかった。昨日行った現場でこんな事があったとか、去年竣工した現場でこんな瑕疵があったとか、昔はここがこうで楽しかったとか――交わされるのは、他愛もない過去の話ばかり。 子供が何人欲しいとか、どこで結婚式を挙げたいとか、どんな結婚生活を送りたいかとか――そういう話を全くしなかった。高校生の頃には当たり前に想像して語り合えた妄想が、より現実に真剣に考えなければならない年齢になり、軽々しく口に出来なかったからだろうか――意識的に避けていたのかもしれない。 未来もまともに語り合ったことのない私が、直之と結婚を意識していた理由ってもしかして、「付き合いが長い」から? 5年も交際しておきながら、私たちは共に前へ進むことが出来ていたのだろうか? そして今後――直之に対する曖昧な感情のまま、共に未来を歩んでいく事は出来るのだろうか? ぼうっと青と緑が入り混じる景色を眺めていると、見覚えのある景色が飛び込んできた。海岸へ続いている石橋。角に立っている、直之と行ったことのあるレストラン――そして海の先に浮かんで見える赤い鳥居。 「着いたぞ、森戸海岸」 近場の駐車場に車を停車させた直之。菫は懐かしさによる興奮と、これから語り合う未来による緊張で胸を轟かせながら、助手席の扉を開けた。
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