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「海の家も、この辺も……全然変わらないな」
テイクアウト出来る軽食と、キンキンに冷えたペットボトル飲料を海の家で買って、白と灰が交ざり合った砂浜を歩く。昨晩雨が降ったお陰で沈みにくく、ビーチサンダルを履かなくても歩きやすかった。
「あの鳥居――やっぱり厳島神社みたいで雰囲気良いよね。あっちに座ろう」
「あぁ、そうだな」
――座ったらきっと、あの話が始まる。早くハッキリさせたいはずなのに、何故か複雑な気持ちになる。
赤い鳥居がより近く見える堤防へ向かった菫と直之。釣りをする人も多い堤防だが、この時間帯は貸し切り状態だった。
バッグからレジャーシートを取り出して、堤防に敷いた菫。風で吹き飛ばないように、先に腰を下ろした直之。きっと周囲からは、普通にデートで海へ来た幸せな恋人に見えているのだろう――先から幾度となく複雑な気持ちになる。
レジャーシートにバッグを置き、腰を下ろした菫。3人用のレジャーシートといいつつ、大人2人が座れば距離も近くなる。
妙な空気感を打ち破るように、直之はフランクフルトを1本掴み、残り1本を菫に差し出した。
「腹減ったろ。ほい」
「う、うん。ありがと」
堤防に打ち付ける波音に耳を澄ませながら、フランクフルトを頬張る。照り付ける日差しと真っ白な入道雲……そして何より海の開放的な景色が、少しずつ心の鍵を外してくれそうな気がした。
「――もし俺がさ」
「ん?」
直之は菫の顔を見る事なく、真っ直ぐ海を見ながら呟いた。
「2年前でも3年前でも――もし俺がプロポーズしていたら、俺達は今頃結婚していたのかな」
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