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プロポーズか――。
20代後半になった時改めて周りを見渡せば、地元の友人は子供が既に三人もいたり、東京にいる友人さえも結婚し、さらには絶対結婚しないと言い張っていた男友達まで結婚した。
その影響もあり『結婚』というものを意識し始めてから、互いの誕生日、クリスマス、一緒に旅行で沖縄に行った時――イベントが訪れる度に待ち侘びていた直之からのプロポーズ。
きっと2、3年前は勿論の事、距離を置こうと言われた「あの日」以前にプロポーズされていたなら、間違いなく私は涙を浮かべながら即答していただろう。いや――正確には、ここ約1ヶ月以前かもしれない。
この約1ヶ月の間に訪れた新たな出会い――そして前進しようと決めた心境の変化。これまで直之に対して正面を向いていた身体が、背を向けて少しずつ離れて行っていた。
きっと今ここで、あれ程待ち侘びていたプロポーズされたとしても――私は、首を縦に振る事は出来ない。
神妙な面持ちで海を眺め続けている菫を見て、直之は小さく笑みを浮かべた。
「――そんな事、今言った所で何も変わらないのにな」
ふうっと息を吐いた直之の横顔を見た菫。遣る瀬無い表情を見て、胸がギュッと締め付けられる。
「――本当だよ。遅いよ」
「ははっ、本当にそうだな……俺はいつも決断が遅い。自分でも嫌になる。少しでも稼ぎを良くしようとして独立したのにな――これも明らかに俺の準備不足。格好悪いよな……お前を守ろうとしてやった事が上手く行かなくて、結局距離を置こうだなんてさ」
決断が遅い事も、下調べもしないで突っ走る事も知ってる。前からそうだから。
そんな一面も受け入れて、何か支障があれば私がカバーしようと思っていた。
相手の欠点を補う事、そして許す事――それが結婚だと思っていたから。
それが愛だと思っていたから。
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