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ずっと横顔を見せていた直之が、胡坐をかいていた足を正して菫を正面から見つめた。
「俺、今日改めて気づいた事がある」
真っ直ぐに見つめられた視線に気付いた菫も、直之の顔を正面から見つめる。湿気を含んだ潮風が、二人の髪を同じ方角へ靡かせた。
「俺はやっぱり、菫が好きだ……いや、愛してる」
5年目にして初めて言われた直之からの言葉に、菫は心臓の鼓動を早めた。同時に困惑して眉を寄せ、唇をキュッと噛み締めた。
――何で……何で今になってそんな事言ってくるのよ。
「この約半年、無我夢中で仕事に没頭できたのも、ずっと頭の中には菫がいたからだ。身体が動かなくなりそうな時も、訳分からん経済の勉強をしている時も、早く菫を迎えに行く為だと思えば力が湧いてきた」
――そういう事……あと1ヶ月早く言って欲しかったのに……。
視線を逸らして歯を食いしばっている菫を見た直之は、鋭い眼光を緩めてフッと小さく笑った。そして菫の頭に手を乗せて、ポンポンと優しく撫でた。
「――けど、菫が前に進もうとしている事は分かっている。他の人に目移りしても受け入れるって言ったのは俺の方だし……この数ヵ月、菫にも新たな出会いや色々な事があったんだと思う」
撫でられている頭を小さく頷かせた菫は、噛み締めていた唇を開いた。
「本当だよ――私、3ヶ月くらいで連絡来るかなって思ってたんだよ?ズルズル何も連絡ないまま半年も待ってさ。私がどんな気持ちだったか分かる?悩んで悩んで、最近ようやく前進しようと決意した時にさ……なんでこんな時に言ってくるのよ。そういう言葉はもっと前から聞きたかったし、今言われてもどう答えていいか分からない……正直私――色んな事が一気に起こり過ぎて、自分の気持ちが良く分からないよ!」
菫の頭から手を離し、穏やかな笑みを浮かべた直之――デニムのポケットに入れていたキーケースを取り出した。
直之の誕生日にプレゼントした、ブランド品のキーケース。
そこに付いている、2本の鍵。
取り外した鍵を1本菫の掌にのせ、直之は大きな手で包み込むようにして握りしめた。
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