第四章 告白

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え……今、何て――? 耳元に強く携帯電話を押し付けながら、急に顔色を悪くした直之の方を見た菫――焦っているという事は……今聞こえてきた事は本当なの……? 「――あの馬鹿……分かりました……直ぐに……えぇ、はい。日本橋の野々村病院ですね。分かりました……」 ――野々村病院……。 電話を切った直之は、血相を変えて菫の方へ向かった。 「菫、大変だ……巧が現場で怪我したらしい。俺、今すぐ病院向かうけど――お前も来るか?」 返事を迷っている暇はない。菫は勢いよく立ち上がり、レジャーシートを丸めながら答えた。 「もちろん行くよ……え、容体は?怪我ってどんな状況で?降矢君は無事なの?」 直之以上に顔を青白くさせた菫――小刻みに震えている身体を落ち着かせるように、直之は菫の両肩に手を置いた。 「落ち着け菫――大丈夫……大丈夫だから」 直之と急ぎ足で車に向かった時、電話で交わされた話の内容を聞いた。 コウは「安岡さん」という内装屋とも一緒に、石膏ボード貼りの仕事をしているとの事。 今日は現場で、石膏ボードの搬入があったらしい。日本橋付近の大現場――数百枚という石膏ボード搬入の為、重量物の搬出入や移動を請け負う「荷揚げ屋」が忙しなく搬入していた。厚さ12.5mm、サブロク板の石膏ボードは1枚約14kg。人によっては1度に4枚持つ人、さらには背持ちで6枚以上持つ人もいる。 もうすぐ搬入が終わりそうだった頃――指先に疲労が溜まった新人の荷揚げ屋が、階段付近で身体をよろめかせてしまった。 昼休みに行こうと、近くを通りかかったコウ。 今にも階段から転げ落ちそうな荷揚げ屋が視界に入った。 荷揚げ屋に駆け寄って肩を掴み、階段と逆側へ投げ飛ばした。体重を逆にかけてバランスを崩した反動で、階段から転げ落ちたコウと石膏ボード――。 車に乗った菫は、バッグに入っている小説をギュッと抱き締めながら、頭の中で巧の無邪気な笑顔を思い続けた。
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