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「――あ、菫さん!こっちー!」
14時半過ぎ、野々村病院に到着した菫と直之――ロビーに入ると、沙百合が手を振って駆けてきた。
仕事中で気付かないかもしれないと思いつつ、沙百合に「降矢巧という知人が野々村病院に運ばれた」という事を連絡した。隼人に連絡しなかったのは、忙しくてそれ所ではないと思ったからだった。
丁度昼休み中だった沙百合は、巧の状況を調べて直ぐ返信をした。命に別状はないものの、手足の骨折をしているというメールを読んで、痛々しい姿を想像した菫は複雑な心境になった。
「沙百合さん、わざわざ有難うございます…あ、こちらは降矢君と一緒に仕事をしている、島津です」
「島津です。巧、今はどちらですか?」
「どうも、小野です!降矢さん、今501号室にいますよ。さっきまで職人さんと監督さんが数名いらしていたんですけど、一旦現場に戻るって言って――その後、お客さん…?今誰かが来ていて話をしているみたいですけど」
「…分かりました。取りあえず行ってみます」
二人を病室まで案内しようとしていた沙百合よりも先に、直之はエレベーターへ向かって早足で歩き出した。
「あぁっ菫さん、案内しますね!こちらです!」
「あ…でも沙百合さんもお仕事中だと思いますので、ここで大丈夫ですよ!先日怒っていた看護婦さんが……先からこっちを見ていますし……」
沙百合の背後にいる、腰に手を当ててジッと見てくる看護婦――以前廊下を走った沙百合を怒鳴ったお局だ。
「ひっ……本当だ。ごめん、菫さん!エレベーター出て左に行けば分かると思う」
「分かりました。本当に有難うございます」
丁度、エレベーターの到着を告げるチャイムが鳴った。菫は沙百合に小さく手を振り、直之が先に入っていったエレベーターに乗り込んだ。
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