第四章 告白

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直之はきょとんとした顔で、巧をじっと見た。 「え?着替え?」 「車で来ているんですよね?俺の家から適当に持ってきて下さいよー、他に頼れる人いねーし!今すぐに!これくらいの罰受けて下さいよ」 「いや、全然罰じゃなくても行くけど……何かと不便だろうし、何かあったら遠慮なく言えよ。家の鍵は?」 「……さすが優しいっす。鍵はそこのソファ上にある、黒いリュックの中に入ってるんで」 「あぁ、分かった」 直之は椅子から立ちあがり、テレビ側のソファ上にあるリュックの中を探った。 「鍵あった。あのマンションの何号室だっけ?」 「2001号室っすよ」 ――2001!?!?タ……タワマン!?!? 「ん、分かった――菫はどうする?」 「あ…私は――」 「っあー、菫さんには執筆手伝って貰いたくってさ!ブラインドタッチ早いじゃん!」 左指でノートパソコンを勢いよく指差した巧を見て、菫は心配そうに眉を寄せた。 「でも……怪我したばかりで、少し休んだ方が良いんじゃ……」 「休んでいる暇ねーっつーの。唯でさえ、早く仕上げろって担当から言われてるんだからよ」 ――そういえばさっき来ていた人も、催促するような口調だったっけ。 「んじゃ……着替え取ったら戻るから、それまで巧の面倒頼むわ。じゃ、俺行ってくるな」 「直之さん、頼みますねー!宜しくお願いします!」 巧は左手をヒラヒラさせ、病室から出ていく直之を見送った。 扉がゆっくりと閉まる音が聞こえた途端――子犬のような瞳をしていた巧は眼光を鋭くし、ベッドの横に座って深刻そうな顔をしている菫をじっと見つめた。 清々しい風が通り過ぎたのを見計らい、巧は片笑みを浮かべながら低い声を漏らした。 「これで暫くの間は、二人っきりだ」
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