Act.1 追跡

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「矛盾するようだけど、そこは超常現象みたいなモノね。自分に危害を加える人間が目の前にいて、それを排除するだけだから、無から有を生み出すって訳じゃないし、最悪、相手に向かって『死ね』って言えば、それで片が付いちゃうんだから」  エルフリーデの説明に、痛烈な舌打ちが漏れる。兵器開発に余念のない人間が、まさしく目の色を変えて欲しがる筈だ。やりようによっては、核のような汚染物質を生成せずに敵を攻撃できるのだから、始末が悪いどころの話ではない。 「彼女の居場所は分かってんのか」  焦る気持ちのままの口調で問うと、エルフリーデは「まあね」と言って、化粧っけのない唇の端を吊り上げた。 「ちょうど、あんたに連絡取ろうと思ってたトコだったのよ。手間が省けて助かったわ」 「俺に?」  セシルは、首を傾げた。 「居所が掴めてんなら、アルブムで保護に動いたほうが早いんじゃねぇのか」 「そうなんだけどね。第一に、アートルムのほうが組織で動いてる以上、アルブム(こっち)も組織で動いたら、下手するとまた抗争になる恐れがあるの。第二に、多分彼女には敵味方の区別が付いてない。人間不信なのね。アルブムも何回か接触試みたけど、いつもスレスレで逃げられちゃうっていうか」 「あー、もう、御託はいい! 資料寄越せ、すぐ出掛けるぞ!」  自身の携帯端末を示して、データを送るよう言うと、「自分で訊いたクセに」と唇を尖らせながらも、エルフリーデの手は再びマウスに伸びた。 *** “――皆、離れてっ! 離れなさい!”  クラスの皆が、ティアナを遠巻きにしている現場に踏み込んできた女性教諭は、手を振ってティアナから児童たちを遠ざけた。 “いいっ? 大人しくしてるのよ! 誰か! 校長先生と警備員のおじさんを呼んできて! あと、保健室の先生も!”  教諭の指示に、二、三人の児童が弾かれたように教室から駆け出す。 “大丈夫? ああ、ひどいわ、何てこと”  教諭は、壁際にうずくまった男子児童たちに手を触れ、ティアナを睨み据えた。  震える手で端末を操作しながら、視線は警戒するようにティアナから外さない。そんな教諭を、ティアナはやはり戸惑って見つめるしかなかった。
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