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こんな生活――何かから逃げ回る生活を始めて、もう十二年にもなる。
(……嫌なコト思い出しちゃった……朝からサイアク)
床に足を着けたティアナは、いや違う、と首を振った。
『最悪』なのは、逃亡生活の始まった七歳の時からだ。夢で追体験することくらい、どうということはない。というより、夢も現実も大差はない。
ユニットバスの扉を開けると、洗面所に疲れた少女の顔が映った。上半身は簡素なティーシャツ、下半身はボトムとスニーカーを身に着けている。
もう何年も、寝間着なんて着ていない。眠る時に、いちいち寝間着に着替えていたら、いざという時に困るのだ。
鏡の中から虚ろに濁った、薄紅と薄紫が入り交じった不思議な色合いの瞳が見つめ返してくる。
物心付いた頃から見慣れた色で、ティアナ自身は特に何とも思っていない。だが。
『――うっわ、気っ持ち悪!』
小学校の入学式で、初めて会った少年の反応を思い出す。あれが、世間一般の反応なのだろうか。
頬に手を当てて、溜息を吐く。
蛇口に手を当てて、捻りながら「水が欲しい」と口に出す。
すると、ごく普通に水が出た。
ここは廃墟だから、普通は水道があっても、水は通っていない。
しかし、ティアナはいつの頃からか、望みを具現化する力を持っていた。但し、思うだけでは駄目で、口に出して初めて望みは叶う。
「タオルをちょうだい」
顔を洗い終えてそう唱えると、手の中にタオルが現れる。
柔らかなそれに顔を埋めて、水滴を拭き取り、また一つホッと吐息を漏らす。
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