Act.1 追跡

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(……今日はどうしよう)  ずっとここにいようか。けれども、これまでの経験上、一所(ひとところ)に幾日も留まるのは危ないと分かっている。  だが、明るい内に移動するのも、同じくらい危険だ。  昨夜は疲れていたので、そこにあったベッドへつい横になったら、あっという間に眠りの底へ転げ落ちてしまった。 (お腹空いたな)  シャワーでも浴びて、そのあと食事にしよう。そう思った直後、乱暴に扉を叩く音がした。 「扉よ、開かないで!」  手を凪ぐようにしながら言えば、しばらくは抵抗できる。しかし、長くは持たない。  ここにいることを知っているような友人や知人はいない。ならば、こんな乱暴な来訪の仕方をする者は決まっている。  ベッドの上にあった上着を取って、ガラスの割れた窓からバルコニーへ出る。下をそっと覗いて、誰もいないことを確かめた。ちなみに、ここは二階だ。 「ガラスよ、元に戻れ」  すう、と指揮者のように掌を上へ動かすと、砕けて落ちていたガラスが独りでに浮かび上がり、瞬時に窓枠へ収まった。  バルコニーの柵を乗り越え、ぶら下がる。できる限り地面へ近い所まで足を伸ばし、思い切って手を離した。  予想外の高さによろけるが、どうにか足を捻らずに着地する。  周囲に追っ手がいないのを確認して、伸び放題になった植え込みの陰へ飛び込んだ。敷地を囲むように設えられていた塀の、鉄柵と壁の隙間から、そっと外を窺う。 (……嘘でしょ?)  塀の外には、武装した軍隊のようなモノが、ズラリと並んでいた。
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