Prologue

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「うわっ! 気っ持ち悪! コイツの目、赤紫だぞ!」  ティアナの目を覗き込んだ、クラスメイトの一人である少年は、大げさに言って仰け反った。 「うわー、ホントだ」  ティアナが何か言い返すより早く、別の少年が駆け寄ってくる。 「なあ、知ってる? 眼の色が変わってる奴ってさぁ……」 「あー、アレだろ? 最近流行(はやり)の」 「バカ、どこで流行ってるんだよ」 「そう、兵器遺産(ヴァッフェ・エルベ)って」 「えーっ、マジで!?」  目の前で交わされる数人の少年たちの会話に、ティアナは戸惑うばかりだ。  兵器遺産という言葉は、ティアナも知っている。  ティアナばかりではない。世界中の人間の耳に馴染んでいるだろう。  第三次世界大戦と呼ばれる核戦争は、最早大昔――一世紀ほども前の話だ。  世界大戦、と言っても、時は二十一世紀半ば。当時、数ヶ国が所有していた核爆弾が一斉に火を噴いただけで、その戦いは幕を下ろした。  引き金を引いたモノが、何だったのかはよく分かっていない。  ただ、数年単位に渡った先の二大戦と違い、開戦のおよそ数秒後に、世界が文字通り崩壊したのだ。  助かった者たちが、その後どうやって生活を立て直したのか。ティアナを含む若い世代は、大人たちの話や、学校の教科書からしか知り得ない。  だが、今度こそもう核に手を出すのはやめよう、というのは、人類の共通した教訓だったらしい。  その教訓を生かしたと言い張る各国政府が昨今、開発・研究しているのが、『ヴァッフェ・エルベ』と呼ばれるモノだ。  しかし、核という単語と同じくらい耳には馴染んでいるものの、具体的にそれがどういった兵器であるのか、ティアナはよく知らない。  大抵の人間がそうだろう。  一般の生活を営む者が、戦争や、それに使われる道具に疎いのは万国共通の筈だが。 「――マジでマジで! ナイショなんだけど、ウチの父さん、アートルムのラボではたらいてんだ」 「へー!」  守秘義務を無視して家族に自分の仕事内容を喋らずにいられない親や、それを友人に吹聴せずにいられない子供がいるのも、どうやら万国共通らしい。
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