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それでなくても、出会って程なく、セシルを少女と本気で勘違いしたジークヴァルトに押し倒されたことは、ちょっとしたトラウマになっている。服を剥かれる前に、急所と鳩尾に思い切り蹴りを入れてやったが、そのあともこうして時折、教えてもいない連絡先を探り出しては連絡して来るのだから、軽いストーカーだ。
『とにかく、今から写真送るから。ちょっと見てくれよ』
こちらが、否も応も言わないのに、通話が一度切れる。この間に、電源を落とそうかと思ったが、やめた。
こういう時、ジークヴァルトは大抵碌でもないことを考えている。協力するしないは別として、彼が何をしようとしているか、知ることは損ではない。
端末を一度ベッドへ放り出し、寝間着代わりのシャツを脱ぎ捨てる。直後、メールの着信を告げる音が鳴って、端末が震えた。
メールを開きながら、セシルはユニットバスへ向かう。
添付されていた写真に映っていたのは、一人の少女だった。
年の頃は、十代の後半だろうか。だとすれば、セシルと同年代だ。顔立ちはまあまあ整っている。どこかで隠し撮りされたらしいその写真の中で、肩先より長いくらいのプラチナブロンドの髪は、風に遊んで揺れていた。
だが、何よりも印象的なのは、その瞳だった。
薄紅と薄紫が混ざり合ったような、不思議な風合いの色味を持つ瞳――それに見入っていると、通話着信を告げるメロディと共に再度端末が震える。
『なあ、見たか?』
「……見たけど」
『その女、ヴァッフェ・エルベらしいぜ』
「ヴァッフェ・エルベ?」
鸚鵡返しに言いながら、セシルは再度眉根を寄せる。
ヴァッフェ・エルベとは、所謂兵器遺産の研究開発のことだが、今時はおしなべて、その技術によって身体が兵器化した人間を指す。
『賞金稼ぎ用の登録アドレスに、依頼メールが来たんだ。つっても、そのメールを受け取ったのはオレだけじゃないらしいから、早い者勝ちだと思うけど。どうも、七年前に失踪したゴッド・アイの持ち主だって話だぜ。肉体の生死は問わず。とにかく、眼球を持ってけばいいらしい』
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