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「パス」
考えることもなく、即答した。
しかし、元来空気の読めないジークヴァルトは、堪えた様子もない。
『そんなコト言わずに、考え直せよ。報酬がとにかく破格なんだぜ』
「なら、あんた一人でやりゃあいいだろ」
『やれるならそうしてるさ。けど、その女の情報が、ゴッド・アイの持ち主らしいってコト以外は流れて来ねえんだ。正確には彼女はテイルだけど』
“テイル”とは、ヴァッフェ・エルベの中でも、遺伝子レベルではなく、人工の臓器や兵器化した義肢、義眼などを埋め込まれた者を指す言葉だ。
『ただ、戦闘能力的には本気で分からん。不測の事態にお前がいてくれると助かるんだ。報酬は六割お前にやるから』
「俺が金に釣られるあんたと同じ性分じゃねぇコトは、理解して貰えてねぇ訳だ」
『そう言わずにさぁ』
「くどい。どうせあんたのコトだから、宿まで調べ上げてんだろうけど、もし押し掛けて来たらあの世にエスコートしてやるからそう思えよ」
『またそんな……ホントにそれやったら、お前が当局に睨まれるんだぜ』
「マジでやらないと思ってるなら甘いぜ。こうやって教えてもねぇ番号に掛けてこられるだけでウザいんだ。第一、あんたに、自分が死んだあとのコトまで心配して貰う謂われはないね。それに、世界の始末屋が毎日どれだけ行方不明になってるか、知らない訳じゃねぇだろ?」
クッ、と嘲るような笑いと共に言い放ち、通信を切る。今度こそ、電源も一緒に落とした。
(……さーて、と)
またぞろ、面倒なことになりそうだ。
そう、胸の内で呟いて、セシルは洗面所とシャワーエリアの間仕切り代わりのカーテンの内へ歩を進めた。
シャワーを浴びて寝汗を流したあと、チェックアウトを済ませたセシルは、宿の二階通路にある窓から飛び降りた。
裏手・表のエントランスのどちらから出ても、ジークヴァルトが見張っているような気がしたのだ。
窓の下の路地裏を通り、別の路地から表通りへ出る。油断なく、怪しい気配や視線を感じないかを確認しながら、駅へ向かった。
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