Act.1 追跡

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「パス」  考えることもなく、即答した。  しかし、元来空気の読めないジークヴァルトは、堪えた様子もない。 『そんなコト言わずに、考え直せよ。報酬がとにかく破格なんだぜ』 「なら、あんた一人でやりゃあいいだろ」 『やれるならそうしてるさ。けど、その女の情報が、ゴッド・アイの持ち主らしいってコト以外は流れて来ねえんだ。正確には彼女はテイルだけど』  “テイル”とは、ヴァッフェ・エルベの中でも、遺伝子レベルではなく、人工の臓器や兵器化した義肢、義眼などを埋め込まれた者を指す言葉だ。 『ただ、戦闘能力的には本気で分からん。不測の事態にお前がいてくれると助かるんだ。報酬は六割お前にやるから』 「俺が金に釣られるあんたと同じ性分じゃねぇコトは、理解して貰えてねぇ訳だ」 『そう言わずにさぁ』 「くどい。どうせあんたのコトだから、宿まで調べ上げてんだろうけど、もし押し掛けて来たらあの世にエスコートしてやるからそう思えよ」 『またそんな……ホントにそれやったら、お前が当局に睨まれるんだぜ』 「マジでやらないと思ってるなら甘いぜ。こうやって教えてもねぇ番号に掛けてこられるだけでウザいんだ。第一、あんたに、自分(てめぇ)が死んだあとのコトまで心配して貰う謂われはないね。それに、世界の始末屋が毎日どれだけ行方不明になってるか、知らない訳じゃねぇだろ?」  クッ、と嘲るような笑いと共に言い放ち、通信を切る。今度こそ、電源も一緒に落とした。 (……さーて、と)  またぞろ、面倒なことになりそうだ。  そう、胸の内で呟いて、セシルは洗面所とシャワーエリアの間仕切り代わりのカーテンの内へ歩を進めた。  シャワーを浴びて寝汗を流したあと、チェックアウトを済ませたセシルは、宿の二階通路にある窓から飛び降りた。  裏手・表のエントランスのどちらから出ても、ジークヴァルトが見張っているような気がしたのだ。  窓の下の路地裏を通り、別の路地から表通りへ出る。油断なく、怪しい気配や視線を感じないかを確認しながら、駅へ向かった。
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