Act.1 追跡

5/11
前へ
/51ページ
次へ
 吐息と共に、さり気なく周囲を見回す。誰も付いてきていないのを再度確認してから、セシルは駅のエントランスへ足を踏み入れた。 *** 「この子の捜査協力要請なら、あたしんトコにも来たわよ」  翌日、エルフリーデの地下診療所に着いたセシルが例の写真を見せると、彼女は事も無げに、開口一番そう言った。 「マジで?」 「マジよ」 「でも、ジークの奴、確かハンター用のアドレスに依頼を貰ったって言ってたぜ」  適当にその辺にあったキャスター付きの椅子を引き寄せると、セシルは背もたれを胸元に抱えるようにして座った。 「あんた、いつの間に転職したんだ?」 「転職した訳ないでしょ。あんたこそ、あたしが誰だか忘れてない?」 「……リターン技術研究局のドイツ支部員」 「そゆコトよ」  呆れたように目を細めた彼女は、クルリと椅子ごとセシルに背を向ける形で、パソコンに向き直る。 「ヴァッフェ・エルベやテイルを捜してるのは、アートルムだけじゃないの。アルブムだって同じ。目的は違うけどね。特に、ドイツは全体的にアルブムの国だから、必然、アルブムの本部が置かれてるのは、あんたも知ってるでしょ?」  彼女がキーボードを叩く音をBGMに、セシルは「まあな」と答える。 「ゴッド・アイは、アルブムでも行方を追ってた。被移植者に異能を与えると言われるあの義眼は、ヴァッフェ・エルベの研究が始まってから、十組しか造られてないんだけど、その写真の彼女が義眼の移植手術を受けた年、開発されたゴッド・アイが十組全て紛失してるの」 「紛失?」 「そうよ。見て」  流れるようにキーボードの上を飛び回っていた彼女の指先が、最後とばかりにエンターキーの上で跳躍する。同時に、セシルは椅子から立ち上がり、彼女の横からパソコン画面を覗き込んだ。 「紛失が発覚する直前、イタリアにあるヴァッフェ・エルベのアートルム組織から、研究員が一人失踪してる。名前は、マケール=フィリペール=リシュバン。彼の行方も杳として知れないままよ」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加