13人が本棚に入れています
本棚に追加
吐息と共に、さり気なく周囲を見回す。誰も付いてきていないのを再度確認してから、セシルは駅のエントランスへ足を踏み入れた。
***
「この子の捜査協力要請なら、あたしんトコにも来たわよ」
翌日、エルフリーデの地下診療所に着いたセシルが例の写真を見せると、彼女は事も無げに、開口一番そう言った。
「マジで?」
「マジよ」
「でも、ジークの奴、確かハンター用のアドレスに依頼を貰ったって言ってたぜ」
適当にその辺にあったキャスター付きの椅子を引き寄せると、セシルは背もたれを胸元に抱えるようにして座った。
「あんた、いつの間に転職したんだ?」
「転職した訳ないでしょ。あんたこそ、あたしが誰だか忘れてない?」
「……リターン技術研究局のドイツ支部員」
「そゆコトよ」
呆れたように目を細めた彼女は、クルリと椅子ごとセシルに背を向ける形で、パソコンに向き直る。
「ヴァッフェ・エルベやテイルを捜してるのは、アートルムだけじゃないの。アルブムだって同じ。目的は違うけどね。特に、ドイツは全体的にアルブムの国だから、必然、アルブムの本部が置かれてるのは、あんたも知ってるでしょ?」
彼女がキーボードを叩く音をBGMに、セシルは「まあな」と答える。
「ゴッド・アイは、アルブムでも行方を追ってた。被移植者に異能を与えると言われるあの義眼は、ヴァッフェ・エルベの研究が始まってから、十組しか造られてないんだけど、その写真の彼女が義眼の移植手術を受けた年、開発されたゴッド・アイが十組全て紛失してるの」
「紛失?」
「そうよ。見て」
流れるようにキーボードの上を飛び回っていた彼女の指先が、最後とばかりにエンターキーの上で跳躍する。同時に、セシルは椅子から立ち上がり、彼女の横からパソコン画面を覗き込んだ。
「紛失が発覚する直前、イタリアにあるヴァッフェ・エルベのアートルム組織から、研究員が一人失踪してる。名前は、マケール=フィリペール=リシュバン。彼の行方も杳として知れないままよ」
最初のコメントを投稿しよう!