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母が描いた俺になれた時がおばさんに報いることが出来る時だと、それだけを心に刻み俺は一旦、この田舎を後にした。錦を飾るまでは帰ってこない、それくらいの覚悟を持って。
だがそれが───どうしてこんなことになった?
確かに初めての帰省がこれでは遣り切れなかった。俺の中では俺が再びこの地の土を踏む時には、おばさんとあいつの笑顔があるはずだったのだから。その夢が一方的に破かれたことに対する理不尽さがないわけではない。それでもそれはこの事実を俺に教えてくれなくてよかったのとは違う。どころか奴からの手紙がなければ、俺はいまもこの事実を知らずに明日も明後日も過ごしていたのかと思うと、なんて恐ろしいことなんだと思った。想像するだにゾッとしないではいられなかった。今でさえこんな───後悔とも慚愧ともつかない深い感情を持て余しているというのに、知らないということはそれだけでなんと罪なことなのか。そして事実を突きつけられた瞬間というのはなぜあんなにも、おぞましいものなのか。
彼の死を知った時の、俺が感じた薄ら寒い思いはきっと誰にもわからない。俺を取り巻いたあの一瞬の戦慄は。
だが今となってはそんなことはどうでもよかった。あいつの死に目に会えなかったとか、葬儀に参列することが出来なかった悔しさなどどうでもよかった。遺影を前にして俺が思ったただ一つのこと、それは───
(なぜ、自殺なんかした?)
わからなかった。解せなかった。俺はおばさんに報いるためにこれまでを、そしてこれからを頑張ることに決めていた。それを告白した時、おまえはなんと言った? 母を一番に幸せに出来るにはこの俺だよ。おまえはそう言ったじゃないか。母を幸せにするのは自分だと。そんなあいつがどうして……どうして死ぬなんてことをした?
あいつが自殺した理由なんかしらない。だが俺はあいつが死んではならない理由なら知っていた。
不意に眼前のはにかみ顔が醜く歪んだ。線香の煙がさらにそれを邪魔する。蝋燭の明かりが滲んで伸びた。俺がそんな風に涙を流したのは、こいつの死を偲んでのことではない。悔しかったからだ。ひたすら悔しく思ったからだった。
あいつが自殺した理由はきっと誰も知ることは出来ないだろう。だが一つだけ、明確な事実があった。
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