あっちとこっち

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「そういえば、この上って社会科準備室ですよね?」 渡辺が脳内で校内の造りを思い浮かべる。確かにこの上はそうだ。 「ですね……あっ!」 気が付いてしまった。三人とも。 そして暗闇のトイレを見ずに、そこから流れてくる風の音だけに耳を傾けた。 ──トイレの上にある建物は……  悲鳴を上げる事も出来ない程、恐怖で喉が締め付けられ、背中に走った悪寒が、トイレの上にある建物が何か、そしてここではない世界の入り口を伝える。 「戻りましょうか。何もなかったですし!」 「そうですね!」 急に襲ってきた寒気を振り切るように笑いながら三人は ──カツン、カツン、ペタ、カツン と、足音を響かせながら職員室へ戻った。渡辺は何かに気が付いていたが、必死に怖いもの見たさの好奇心を押さえて、明るい場所へと戻った。 その後も、二階の体育館にしか現れなかった幽霊が一階で目撃され、夏の終わりには三階でも目撃された。渡辺は幽霊は移動していると考えた。北校舎で縦にあっちの世界をひろげているのだと。そして彼女はその行動範囲を広げている。 「そういえば今年の夏はそんな事もありましたね。」 「懐かしいですね。」 と、渡辺はあの日一緒に捜索に出かけた山田と社会科準備室で話す。 今はあの肝が冷えた夏より寒い冬だった。石油ストーブの前であの夏の話をする。 ガラン、ゴロゴロ。 「また落ちた。」 「ちょっと、受験シーズンに不謹慎ですよ渡辺先生!」 「あはは、すみません。」 謝罪しながら最近よく軸のネジが外れて落下する地球儀を拾い上げる渡辺。 最初は怪奇現象だと山田と騒いだが、ここは社会科準備室─この世だ。 そして赤いスカーフの生徒を一度も見ずに、渡辺は翌年度転勤した。 それ以降も山田からたまに連絡が来る。 ──出た。今度は南校舎に。
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