あっちとこっち

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あっちとこっち

 それはある夏の日だった。 高校教師になって二年目を迎える社会科の渡辺 美咲は、部活動指導を終え職員室に戻ってきたところだった。この時間ともなると、職員室に残っているのは部活動後の教師や仕事を残している教師ばかり。同じメンバーに気も抜け、緊張感なくだらりと椅子に座った。 「お疲れ様です。」と、隣にデスクを構える数学の小林 誠が団扇で扇ぎながら労いの言葉をかけてくる。 日中の職員室ではお目にかかれないだらけた光景。これも放課後ならではの光景で、団扇の風で教師という皮をも飛ばしてしまいたくなる。 「涼しいなあ。」 「今日も一段と暑かったですよね。さっき進路指導主事がアイスの差し入れくれましたよ。」 小林が団扇で指した先では数人の教師が十本入りのチョコレートアイスを食べていた。 涼と甘味を得た涼しげな顔に苦笑いをした渡辺も、それをデスク上の仕事を片付けたご褒美にしようと決め、「ありがたいですね。」と微笑みながら頬杖をついた。  だが、そんな気の緩んだ職員室が突如震撼する。
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