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一ヶ月と少し前、真菜はある男子生徒に命を救われた。
大袈裟ではなくて、真面目な話だ。
一学期中間テストの最終日、真菜はプリントを読みながら登校していた。
前日に勉強をサボったツケを登校時間に支払っていたのだ。昨日までのテスト疲れで、昨夜爆睡してしまったせいだった。
おまけに起きたら遅刻寸前。勉強している時間などなかった。
仕方なく歩きスマホならぬ歩きプリントに頼っていたのだが、その大事なプリントが、急な風に煽られて飛ばされた。
あっとそれに手を伸ばして、真菜が飛び出したのは車道だった。
おまけにちょうどよく車が走ってきたところで、このままだったらちょうどよく轢かれるタイミングだ。
信じらんない。
こんな間抜けな死にかたってある? と、死を覚悟して情けなく思ったとき。
真菜の体は、勢いよく歩道側に引き戻された。
腕が引っこ抜かれるのではという力で真菜を引き戻してくれたのは、学年トップの成績を誇る男子生徒だった。
浅田涼太。一年のときは同じクラスだったが、いまは真菜の隣のクラスだった。
クラクションを鳴らして遠ざかっていく車を見送る彼の横顔は、整っていて理知的で、とてもきれいだった。
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