11人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
* *
雨の日は、胸の傷跡が痛む。
「ーーまあ、また豚の角煮を作ってるの? 昨日の分も全部あるのに……。ね、病院に行きましょう由美。一緒に付いていってあげるから」
情けなく媚びたお母さんがやってくる。
でもそんなの、かまってる暇なんて無い。
今日はおばあちゃんの四十九日。昨日より腕によりを掛けて美味しい角煮を作らなくっちゃ。
ずくり……ずくり
ありがとうおばあちゃん。おばあちゃんの浴衣のお陰で私はこんなにもお姉様に近づけた。
だから作らなくっちゃ。美味しい美味しい豚の角煮を、おばあちゃんのためにどっさりと。
ずくり……ずくり
生肉を断つ間だけ、私は生を実感できる。
あのときお姉様を刺した掌の感触、生の重みを感じられるこの瞬間だけは、こんなつまらない世界の中でも生の喜びを感じられるの。
私の胸を貫いた、お姉様の確かな愛を感じられるの。
ーーでももう、肉を断つ遊びにも飽きてしまったわ。
お姉様に会いたい。いつもいつまでもそばにいたいの。
だからお願い。
あの約束だけはきっと、きっと守ってね……。
〈謝肉祭の二乙女 終〉
最初のコメントを投稿しよう!