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「そうです。想像出来ないほど短い時間で、信じられないほど遠くまで。それで、そこでは冒険が待っています」
「冒険?」
「そうです。普通出会えない人々、知らない文化、辺境にしか生きない生物、そして、その場所にしか咲けない花々に、おおきなおおきな虹色の花畑」
あらあら、おやまあ、と驚いていた彼女が、リュックサックをぶら下げて電車に飛び乗って、振り返った。
穏やかでパワフルでわたしの胸の高鳴りそのままの笑顔は、わたしの胸を深く刺した。
かすれた制服の車掌は、まだ笛を鳴らさない。
「夢を運ぶことが、夢? なんて夢! 身の程知らずかも。でも楽しそう!」
「・・・はい!」
「そうだわ、ふたつめの夢は、その鉄道で冒険することにした! ありがとう!」
笛の合図でドアは閉まり、ガコンガコンと走り出たボロボロの電車を、黄色いホームでひとりきり見つめていた。
彼女もわたしも手は降らなかった。
この国ではわたしが生まれる以前、人口の減少によって公共機関と呼ばれたおおきな乗り物は次々無くなっていった。
ここの駅もあわせた三つの駅と、擦り洗われて薄れた線路と車両が、この小さな町に残ったわずかなもの。
ホームのはじっこでは黄色い花が震え、瓦の重い屋根は軋んでいて、ぜんぶ相変わらず。
わたしはひとり反対の電車へ飛び乗った。
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