痴漢 × ストーカー

2/30
5368人が本棚に入れています
本棚に追加
/426ページ
「痴漢よ!この人痴漢!」 満員の電車に突如現れた大きな声 4両列車の前から3両目、扉のすぐ近くだった。 馬由が浜駅で快速列車に乗り込むとすでに満員。 まず始めに捕まるものを探すのが鉄則で 一番いいのはシートにくっついているポール 運良く背中に壁をゲット出来れば最高 でも今日は運悪くつり革だった。 つり革はいくらしっかり握っても不安定で 嫌いだった。 その声が聞こえたのは 馬由が浜駅を出て新城駅を通過したとこだった。 海辺を走っていた電車が一瞬山間に入り 景色が一瞬閉ざされるとき。 こんな田舎にも 満員電車だと痴漢がいるんだなって思った。 「違…違います!」 「誰か駅員に知らせて!」 犯人らしき男性の声と 最初に叫んだおばさんの声 ざわつく乗客 次の駅に電車が入ると 背広のおじさん二人に腕をしっかり掴まれた犯人は 電車を降ろされた。 「あなたもよ!」 私も降ろされた。 電車の中からざわつく視線が ホームに降りた私たちを追いかけてきた。 「大丈夫?怖かったわね」 おばさんが私の背中を撫でる 私、痴漢にあったの? がっちりホールドされた犯人がこっちを振り向き 私とおばさんを睨んだ。 「俺は何もしてない!」 「ウソおっしゃい!  私見たんですから!」 「するわけねえだろ!  痴漢するほど困ってねえんだよこっちは!」 部屋に入るなり犯人は無実を主張して叫んだ。 お巡りさんや駅員さんに向いていた視線は 少し離れて座らされた私に向かい 「おいお前!さっきの状況説明しろ!」 必死の形相で怒鳴り、助けを求めた。 そんな犯人をキッとにらみ返したのはおばさんで 「大丈夫よ、おばさんがついてる」 汗を拭いながら私の顔をのぞき込む まだ肌寒さも残る四月の初め おばさんは興奮気味だからなのか それとも分厚そうなお肉のせいなのか 額には汗が滲んでいた。 「お嬢さん話せるかな」 「恥ずかしくないのよ、どうされたのか話して」 ここにいる全員が私を見る。 犯人に至っては生きた心地は完全に忘れてる。 制服のボタンが取れかかっていた。 濃紺のセーラー服の右の袖口のボタン 金色の飾りボタン そこにボタンがあったことを証明するように 袖口には切れた糸が絡みついていた。 「そうよね、こんな事恥ずかしいわよね」 おばさんが声のトーンを落とす。 可哀想にって でも恥ずかしくて下を向いたのではなくて ボタンの有無を確認しただけ、 だって犯人の言うさっきの状況って このボタンの事だもん。
/426ページ

最初のコメントを投稿しよう!