ユキノモリ

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ユキノモリ

 枯葉を踏む音が好き。  そう言ったのは、誰だったか。今年買ったばかりのブーツは、あの人が好きだと言った音を鳴らす。  思い返せば、私の思い出は暖かいものが少ない。  小さな頃は入学式だとか運動会だとか、春や夏のイベント事は多かったかなと考えると、クスリと笑えてくる。  冬のイベントが楽しかった記憶も無い事は無いはずではあるが、ウインタースポーツが得意な訳でも無い。  それでもなんとなく冬の楽しさを知っていた。  そして秋の寂しさを何となく私は知っている。大人になったからだろうか。  大人になれば、もっと沢山の事が出来る様になって、きっと仕事も恋も楽しいのだろうと漠然と考えていたのは、やはり私が幼かったからだろう。  仕事が忙しい。  教師という仕事にずっと憧れていて、念願叶って教師をしているが、子供たちは言う事をまるで聞いてくれないし、子供の親からも責められる。  どうして自分は教師になったのか、なんて忙しすぎて考える暇もなかった。大人になっても何も出来ないままの自分が嫌いになっていた。  僕は、秋が嫌いだな。 でも枯葉を踏む音は好きなんだ。  誰の言葉だったか。  秋が嫌い、何だか心が寂しいから。     
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