廃ホテルの怨念

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 鈴は自分で気づかぬうちに、自分を分厚い壁で囲ってしまっていた。  誰もその壁を打ち壊そうとしなかったし、できるとも思われなかった。しかしその壁に、ついにヒビが入る。 「でも俺……嬉しかったんだよ! K駅で広瀬と目が合って……広瀬も同じものを見てるのがわかって」  新一が、鈴の背に訴える。  鈴を閉じ込める分厚い壁が、大きな槌で乱暴に叩かれた。 「この世界に、俺と同じものを見てる人なんて、いないと思ってた。でも、広瀬に会った。俺だけじゃないんだって、俺一人じゃないんだってわかって……俺、メチャクチャ嬉しかったんだよ」  聞こえないフリをして立ち去ってしまえばよかったのに、鈴にはできなかった。  自分一人ではない――その言葉が鈴の胸に突き刺さる。 「……どこにあんの、江藤がいう心霊スポットって」  ひどく不機嫌な顔で、鈴は振り返った。まだ気まずさが強くて、どんな顔をしていいかわからなかった。  新一はすぐには理解できなかったのか、間を置いてから目を輝かせた。 「ちょっと遠いんだけど……とっておきのがスポットがあるんだ!」  とっておきってなんだよ、と鈴はつい笑ってしまった。  鈴が笑うと、新一もつられて笑った。  気まずさから一転、穏やかな空気が二人の間に流れた。  しかし――鈴は知らなかった。この後、恐怖のどん底に落とされることを――。    ■■■■■     
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