33人が本棚に入れています
本棚に追加
鈴は自分で気づかぬうちに、自分を分厚い壁で囲ってしまっていた。
誰もその壁を打ち壊そうとしなかったし、できるとも思われなかった。しかしその壁に、ついにヒビが入る。
「でも俺……嬉しかったんだよ! K駅で広瀬と目が合って……広瀬も同じものを見てるのがわかって」
新一が、鈴の背に訴える。
鈴を閉じ込める分厚い壁が、大きな槌で乱暴に叩かれた。
「この世界に、俺と同じものを見てる人なんて、いないと思ってた。でも、広瀬に会った。俺だけじゃないんだって、俺一人じゃないんだってわかって……俺、メチャクチャ嬉しかったんだよ」
聞こえないフリをして立ち去ってしまえばよかったのに、鈴にはできなかった。
自分一人ではない――その言葉が鈴の胸に突き刺さる。
「……どこにあんの、江藤がいう心霊スポットって」
ひどく不機嫌な顔で、鈴は振り返った。まだ気まずさが強くて、どんな顔をしていいかわからなかった。
新一はすぐには理解できなかったのか、間を置いてから目を輝かせた。
「ちょっと遠いんだけど……とっておきのがスポットがあるんだ!」
とっておきってなんだよ、と鈴はつい笑ってしまった。
鈴が笑うと、新一もつられて笑った。
気まずさから一転、穏やかな空気が二人の間に流れた。
しかし――鈴は知らなかった。この後、恐怖のどん底に落とされることを――。
■■■■■
最初のコメントを投稿しよう!