廃ホテルの怨念

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 心霊スポットだとか事故物件だとか、好き勝手に言いはやす人間が鈴は大嫌いだ。そいつらはそこで起きたことの真実を知ろうともせず、そこで亡くなった人たちに思いを寄せることもなく、暇つぶしのためだけに面白おかしく、嘘も平気で織り交ぜて言い触らす。  しかし、鈴のその思いを新一にぶつけるのは、ただの八つ当たりだった。見苦しい真似をしているとすぐに気づいたが、謝れる雰囲気でもなかった。  新一は悲しそうに、苦しそうに鈴を見つめていた。先ほどは同情に感じて心がささくれ立ったが、その反応は普通の人の――良識的な人の優しい反応なのだと思い出す。  鈴の方が気まずさに押し潰されそうだった。かける言葉は見つからず、無言で新一に背を向けた。新一とそれ以上向き合っていることが苦痛だった。  あの地震の話をすると、こうなるから嫌なのだ。地震のせいで、鈴は人との距離感が上手く掴めなくなった。  そして鈴は――一人でいることが多くなった。東京に越してきてから、親しい友人はいない。いじめられたことも、冷たくされたこともなかったが、どうしても他人と距離を詰められない。  孤独感に心が折れないでいられるのは、女優の叔母譲りの見た目のお陰だ。友達はできなくても、女の子は鈴の見た目を気に入って近づいてきてくれる。それでも、彼女たちが鈴の身の上を知って、憐れんだような態度を見せられると、鈴の方が冷めてしまうので長続きはしなかった。     
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