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窓の外には、青々とした水田が広がっている。逞しく成長した稲が風に揺れ、ザァッという音が聞こえてきそうだ。
五月中にこれほど稲が育っているのは、関東だからだろう。鈴が育った町の水田は、五月の連休頃に田植えするところが多く、この時期にはまだ稲は小さくて、水田はスカスカに見える。
鈴はフッと笑った。
「広瀬?」
「……俺さ、中二で東京に越してきたんだけど、それまで東京って……関東って、どこもかしこも人だらけビルだらけの大都会、だと思ってたんだよ。けどさ、東京からちょっと電車に乗っただけで、うちの地元と変わんない景色があるんだよな。田んぼだらけ、ていう」
「まあ……そうね。ここらも中々の田舎、だし。俺は好きだけどね、こういう田園風景。緑がきれいだし、空が広くて気分がいいじゃん?」
さっきまで心霊スポットについて力説していた男が、田んぼの緑と空の青に目を細めている。鈴は呆れて笑うしかなかった。
「江藤って……よくわかんない奴だな。で? 俺はどんな田舎まで行けばいいわけ?」
鈴が話を戻すと、新一は嬉しそうに続きを話し出した。先入観なしで心霊スポットに行ってみようという話は、新一が自ら提案したのにすっかり忘れられているようだ。
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