廃ホテルの怨念

19/44
前へ
/204ページ
次へ
 窓の外には、青々とした水田が広がっている。逞しく成長した稲が風に揺れ、ザァッという音が聞こえてきそうだ。  五月中にこれほど稲が育っているのは、関東だからだろう。鈴が育った町の水田は、五月の連休頃に田植えするところが多く、この時期にはまだ稲は小さくて、水田はスカスカに見える。  鈴はフッと笑った。 「広瀬?」 「……俺さ、中二で東京に越してきたんだけど、それまで東京って……関東って、どこもかしこも人だらけビルだらけの大都会、だと思ってたんだよ。けどさ、東京からちょっと電車に乗っただけで、うちの地元と変わんない景色があるんだよな。田んぼだらけ、ていう」 「まあ……そうね。ここらも中々の田舎、だし。俺は好きだけどね、こういう田園風景。緑がきれいだし、空が広くて気分がいいじゃん?」  さっきまで心霊スポットについて力説していた男が、田んぼの緑と空の青に目を細めている。鈴は呆れて笑うしかなかった。 「江藤って……よくわかんない奴だな。で? 俺はどんな田舎まで行けばいいわけ?」  鈴が話を戻すと、新一は嬉しそうに続きを話し出した。先入観なしで心霊スポットに行ってみようという話は、新一が自ら提案したのにすっかり忘れられているようだ。     
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加