出会い

3/5
前へ
/204ページ
次へ
 男性が立つ位置がおかしい。黄色い線を跨ぎ、ホームの端ギリギリに立っているのだ。そしてそのことを、鈴以外の誰も違和感として捉えていなかった。  いや、ホームにいる他の誰も、ホームの端に立つ男性を認識していなかったのだ。不自然に立ちつくす男性を、誰も気に留めた様子がなく、それどころか見えてさえいないようだった。  そこまで理解して、鈴は否応なく認めた。自分はまた、他者が見えていないものを見ているのだと――。  鈴は子供の頃から、他の人が見えないものが見え、自分以外の人が認識しないものを認識してしまう厄介な性質だった。そのせいで嫌な思いをすることは多く、K駅のような場所にはなるだけ近づかないようにしてきた。  ウンザリする。なにか、が見えてしまう自分にも、女の子の甘い誘惑に勝てなかった自分にも――。  見えないものを見たくなくて俯く鈴の耳に、機械的なアナウンスが届く。反対のホームに、定刻通り電車がやって来るという自動アナウンスだ。  それにつられ、思わず顔を上げた。そして――息を呑んだ。  さっき見かけた“見えないはず”の男性が、線路を挟んで鈴の正面に立っていた。見えないはずの男性は悲しそうな目で、しかしシッカリと鈴を捉えていた。  見えないはずの人と目が合った。その次の瞬間、電車が駅に滑りこんできた。     
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加