廃ホテルの怨念

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 新一は電話を終えるとニコリと笑った。鈴は、目を瞬かせた。 「タクシーって……俺、そんなに持ち合わせないけど」  鈴はアルバイトを掛け持ちする身である。大切なバイト代をこんなところで使いたくないのが本音だ。 「ああ、いいよ、タクシー代は俺が持つから」 「いや、そういうわけにも……」 「いいっていいって、俺が無理やり付き合わせてんだし……さっきも言ったけど、うちのお父さんって父親らしいことはなんにもしないけど、お小遣いはケチらないでくれるんだ。だから俺、バイトもしたことないし」  聞きようによっては嫌みであるし、不快感を抱いてもおかしくない発言だが、鈴は驚くばかりで嫌悪することはなかった。  新一があんまり明るくドラ息子宣言したので、呆気に取られていたのである。 「じゃあ……悪いけど、甘えさせてもらう。けど、あんま無駄遣いはすんなよ、余計なお世話だけど」 「へぇ、広瀬って、見た目よりチャラくないんだ」 「は? 俺のどこがチャラいんだよ」  大変心外である。アルバイトは三つ掛け持ちしているし、大学の成績も良好だ。完全給付型奨学金の奨学生であるから当然の話だが。 「ごめんごめん、見た目のせいで勝手にそう思ってた。背が高くてイケメンだし……いっつも違う女の子といるじゃん?」     
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