廃ホテルの怨念

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 歩けば一時間以上かかる距離も、タクシーならば十五分もかからなかった。田園風景をしばらく走り、小高い丘の中腹にその廃ホテルはあった。西洋の城をイメージした外観だが、ひどく安っぽく、何十年も前に建てられただけあって古臭いデザインだった。  鬱蒼とした林の中に、ポツンとそのラブホテルだけが建っている。目隠しなどいらないだろうが、ラブホテルらしく塀に囲まれ、正面の入り口もわかりづらくなっていた。その前に、鈴たちを乗せたタクシーが止まる。  県内最恐の心霊スポット、として名高い古いラブホテルの前に下り立ち、鈴はしかめた顔で朽ちた建物を見上げた。  雰囲気は――十分だ。まだ日も高いというのに、建物の周囲が薄暗く感じる。それは心霊スポットという触れこみを聞いているせいか、もしくは本当に――。  鈴は、足元が冷えていくのを感じていた。ホテルがまったく手入れされていない雑木林に囲まれているせいだと、自分に言い聞かせる。薄暗いのも、足元が冷えるのも、木々のせい――のはずだ。 「じゃあお兄ちゃんたち……気をつけて。帰りはまたうちによろしくね」     
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