廃ホテルの怨念

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 鈴は、幽霊の存在を信じていない。心霊スポットと呼ばれる場所も、ほとんどが不便で人気のない、薄暗いだけの場所だと知っている。だからこのホテルも、その類だと思っていた。  しかし、いかにも古めかしい作りの、朽ちたホテルを目の前にすると、言いようのない恐怖が足元からせり上がってきた。幽霊などいないのだが、なにかが怖くて鈴を震えさせる。 「ウッソだぁ、顔、引きつってるよ? もしかして、怖い~?」  廃ホテルの雰囲気に呑まれ、すっかり怯えた鈴とは対照的に、新一は意気揚々とホテルへ向かっていく。 「おい! ……マジで行くのかよ?」 「せっかくこんな田舎まで来たんだから、行くに決まってんでしょ。あ、あの窓! 誰かこっち見てる!」  顔を上げた新一は、嬉しそうにホテルの窓を指差した。真ん中ぐらいの階の、向かって右端の窓に――年齢不詳の男が立ってこちらを見下ろしていた。  ヒッ! と小さな悲鳴を上げる鈴。ヨッシャ! と小さくガッツポーズを握る新一。  ラブホテルの窓というのは、普通ははめ殺しで開かないのではないか、とか、見下ろす男は暗く、どこか恨めしそうにも見えるのに、なぜ新一は嬉しそうなのか、自分と新一では男の見え方が違うのだろうか、と鈴は混乱した。 「なぁ広瀬、あの窓にいる男の人、見えるよね?」 「え……あ……黒? のセーターみたいなの着てる?」     
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