35人が本棚に入れています
本棚に追加
建物内に入ると、真冬のような冷たい空気が鈴を襲った。あまりの冷たさに震え上がる。次に湿気とカビの臭いが鼻をついたが、こちらは閉めっぱなしの古い建物にありがちなもので、怖さは感じなかった。
「うっわ、中はボロボロだな」
そう言いながら、ズンズンと中に進んでいく新一は楽しそうだ。
「あれ? 今度は女の人じゃね?」
フロントだったと思われるカウンターの奥に、三、四十代の女性が鈴にも見えた。鈴は声にならない悲鳴を上げたが、新一は嬉しそうにそちらに手を振った。すると、女性がスッと物陰に消えた。
「あ~、やっぱ無視。手、振り返すぐらいしてくれてもよくない?」
楽しそう振り返られても、鈴は顔が強張って上手く話せない。
(なんでこいつ……ビビらないんだ?)
鈴は信じられないものを見るように、新一を見つめた。認めたくはないが、新一は自分と同じものを見ているようなのに、その反応は真逆だ。
見えないはずのものを見て、怯える自分と――喜ぶ新一。
この状況で、最も恐ろしいのは新一のような気がしてくる――。
恐怖で声が出ない鈴に、新一がなにか気づいてニヤッと笑う。
「あれ……広瀬って、幽霊、怖い人?」
「は、はぁあ?」
「今、メッチャビビってる?」
新一が嬉々として鈴をからかう。
「は? ビビってないし」
「ウソだ~! さっきから顔色悪いし、なんか泣きそうな顔になってるし」
最初のコメントを投稿しよう!