廃ホテルの怨念

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 建物内に入ると、真冬のような冷たい空気が鈴を襲った。あまりの冷たさに震え上がる。次に湿気とカビの臭いが鼻をついたが、こちらは閉めっぱなしの古い建物にありがちなもので、怖さは感じなかった。 「うっわ、中はボロボロだな」  そう言いながら、ズンズンと中に進んでいく新一は楽しそうだ。 「あれ? 今度は女の人じゃね?」  フロントだったと思われるカウンターの奥に、三、四十代の女性が鈴にも見えた。鈴は声にならない悲鳴を上げたが、新一は嬉しそうにそちらに手を振った。すると、女性がスッと物陰に消えた。 「あ~、やっぱ無視。手、振り返すぐらいしてくれてもよくない?」  楽しそう振り返られても、鈴は顔が強張って上手く話せない。 (なんでこいつ……ビビらないんだ?)  鈴は信じられないものを見るように、新一を見つめた。認めたくはないが、新一は自分と同じものを見ているようなのに、その反応は真逆だ。  見えないはずのものを見て、怯える自分と――喜ぶ新一。  この状況で、最も恐ろしいのは新一のような気がしてくる――。  恐怖で声が出ない鈴に、新一がなにか気づいてニヤッと笑う。 「あれ……広瀬って、幽霊、怖い人?」 「は、はぁあ?」 「今、メッチャビビってる?」  新一が嬉々として鈴をからかう。 「は? ビビってないし」 「ウソだ~! さっきから顔色悪いし、なんか泣きそうな顔になってるし」     
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