廃ホテルの怨念

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「顔色は、暗い場所のせいでそう見えるだけだろ。泣きそうなのは……そうじゃなくて、こんな陰気な場所にいて、楽しそうにしてる方がおかしいだろ! つまり江藤がおかしいだけってこと!」 「え~、なにムキになってんのぉ? そっか、広瀬って幽霊怖い人だったんだ。もしかして、幽霊いないって言い張るのって、怖いからなんじゃないの?」 「なに言ってんの? ビビってないし、幽霊なんかいるわけないだ…っ!」  ガタン! と上の方で大きな物音がした。驚いた鈴は飛び跳ねたが、新一は、なんだ? と嬉しそうに駆け出した。 「おい! ちょっ待てよ!」  リアルにチョマテヨを叫び、一人になるのは嫌だという思いだけで新一を追った。  新一は非常口の案内を確認し、そちらにあるはずの階段を目指していた。日が差さない薄暗い廊下を抜け、非常口の案内の下の錆びた鉄扉を押し開ける。建物の最奥にある階段はさらに暗く、視界が悪かった。それでも新一は躊躇うことなく、階段を昇り始めた。 「マジかよ……」  鈴は恐る恐る階段に足をかけた。階段も手すりもボロボロで、物理的にも不安が大きい。 「江藤! 待てってば! 色々危ないし……ホームレスとかいたらどうすんだよ!」  さっさと行ってしまう新一を引き留めようとするが、大丈夫だって! と無責任で能天気な返事が返ってくるだけだった。     
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