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1章 狐の嫁入り vs 雨男
■1
どの図書館にも龍がすんでいる。大きい図書館には大きな龍が、小さな図書館には小さな龍が。本棚と本棚の間を通り抜けるように、すり抜けるようにしてただよっている。
市内で二番目に大きい、晴朗中央図書館には、銀色の大きな龍が住んでいた。輝く鱗を光らせながら、巨大な樹木のような体を翻し、いつもどこかを漂っている。大抵の場合は壁や本棚の間をすりぬけて、どこかへと消えてしまう。話しかけたことなんてないし、視線があったことすらもない。そもそも、あの龍の視界に人間は写っているのだろうか。あの龍は、図書館に現れる幻覚。通り雨だとか、虹だとか、そういう現象の一つなのだ。
だから、私以外に、あの龍が見えるものなど存在しない。……と、思っていた。
「どこ見て歩いてんだ馬鹿野郎!!」
図書館の静寂を、怒号が切り裂いた。空気が凍って、図書館の利用者たちがこちらを覗いてくる。
「す、すみません」
本を両手に抱えた少女が謝った。
「本棚の影で、よく見えなくて……」
「あーあー、今日買ったばっかりの服が汚れっちまったよ!!その薄汚い本が触れちまったせいでな!」
「え、えっと、ほんとに、すみません」
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