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ふ、と気づくと何の音も聞こえなくなっていた。
そろり、と目を開けると、コンクリートの塊は彼に当たる直前で止まっていた。
空中で、彼のほんのちょっと上で、止まっているのだ。
揺れの途中だ、と言わんばかりに電線も大きく揺れた形のまま止まっている。
「なに、これ。」
私はそっと立ち上がると、ふらふらと彼に近づいた。
時間が止まってしまったみたいな世界。
彼も瞬き一つしない。
でも、今なら彼を助けられるかもしれない、と思って私は彼の腕を掴もうと手を伸ばす。
「無駄だよ。」
声が聞こえて振り向くと、そこには一匹の黒猫が座ってこちらを見ていた。
「触れやしないさ、だってここは夢なんだから。」
黒猫が確かにそう言うのを、見た。
「一体だれなの。どうしてこんな夢を、」
「予知夢だよ、知っているだろう。」
混乱する私をにやにやと黒猫は嘲笑いながら続ける。
「もうすぐ日本は終わる、地震とそれの影響で起きる噴火でね。」
「どうして、それを、私に、」
「僕は知らないよ、君にそんな力があった、ってことじゃないの?」
黒猫は手を舐め、顔を洗って興味なさげにそう言う。
「ただの悪い夢だと思うなら、それでいいよ、信じないならそれでもいい。」
にやにやと、黒猫は笑うと私に向かって爪を立てた。
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