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世界最後の日
「お邪魔します。」
「どうぞ。」
軽くお母さんに紹介して、二階の私の部屋に通す。
昨日掃除は完全にしたし、片づけもした。
空気の入れ替えもしたし…。
「部屋、綺麗だね。星のカーテンは、なんかイメージぴったり。」
用意しておいたクッションに腰かけた彼が、私の部屋を見渡してそう言う。
本当に、掃除しておいてよかった。
「ありがとう。そのカーテン、一目惚れしたんだ。」
「そうなんだね、これ確かにいいね。」
しん、と部屋が静かになる。
お互い緊張しているんだ、なんて冷静に思いつつ、私は立ち上がる。
「ちょっと、お茶とかとってくるから、待っててね。」
「ありがとう。」
部屋を出ると、私は急いでお茶とお菓子とをお盆に乗せて運ぶ。
途中、今は使われていない兄の部屋に寄って、机の引き出しに隠しておいた瓶を出す。
「これを飲めば、」
ネットで手に入れた睡眠薬をお茶に混ぜる。
夢の中で体験した、あんな大きな地震がくるんだ。
怪我をするのは間違いないだろう。
彼に痛い思いをさせるのは本当に嫌だった。
そこで考えたのが、眠らせる方法だった。
「眠っている間に、地震が起こって……全て終わる。」
薬は綺麗にお茶に溶けて見えなくなってしまった。
「地震が起きなかったら最悪、無理心中になるのかなあ。」
はは、と乾いた笑いが部屋に響く。
正直それならそれで全然いい、むしろそれがいい。
彼は死なないで済むのだから。
もう一度だけ、睡眠薬の瓶のラベルを確認する。
致死量ではなく、1日の睡眠分の量、間違いない。
こんな方法でしか、彼を守ることができない自分が腹立たしいし、情けない。
正直に話してしまえば良かったのかもしれないけれど、そうなるときっと彼はどうにか私だけ助けようとするに違いない。
そんなのは、嫌だった。
「もう少し、私たちが大人だったなら、」
大人だったなら、二人で海外に逃げ出せたかな。
大人だったなら、もっとましな方法を見つけ出せていたんじゃないかな。
考えだすと本当にキリがない。
「そろそろ戻らないと。」
夕日が部屋に差し込んできている。
時間はきっと、そんなに残ってない。
「お茶持ってきたよ。」
「ありがと、」
彼は実は喉が渇いてたんだ、と照れくさそうに言ってお茶を飲み干した。
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