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6月17日
「羽白さん、いる?」
「あ、はい…?」
「ちょっと、いいかな」
久しぶりに、雨が降らなかった今日。
教室にきた瞬間に、背の高いやけに爽やかな男子に、羽白さんが呼ばれ、教室を出ていった。
「…れ、怜那ちゃん」
「おかえり、帆夏って、どうしたの、顔、真っ赤」
「あ、あの…っ、ちょっと来てっ」
「ちょ、帆夏?!」
教室に戻ってきた、と思ったら、羽白さんの顔が赤い。そして、その赤い頬のまま、寺岡さんを引っ張った羽白さんと目が合った瞬間、羽白さんの頬が、今以上に、赤く色づいた。
「何かあったのか?」
ベランダに寺岡さんを連れていき、こそこそと話している姿をちら、と見ながら呟けば、「告白されたんだと思うよー?」となぜか照屋が慣れた様子で答える。
「…告白?」
「うん。ほら、はじろん、可愛いし、優しいし。昔っからよく告白されてる」
「…へぇ…」
照屋の話を聞いて、ズキ、と胃のあたりに、重たい痛みが走る。
なんだ、今の、と胃のあたりをさすりながら首を傾げるものの、痛みは一瞬だったらしい。
「なる」
「ん?」
「早くしないと、盗られちゃうよ?」
「え、なにが?」
「…え?」
「?」
なにがだ、と照屋に問いかけても、「え?」しか言葉が返ってこなくて、「いや、だから何が」ともう一度問いかければ、「…あー、んーとねぇ」と照屋が明後日の方向を向き始める。
「…おい」
「なるが気づいてないなら、まだ教えない!」
「…はい?」
にこにこ、と満面の笑みを浮かべて言い切った照屋に、意味がわからない、と思い切り首を傾げれば、「へへへー」と照屋が妙に楽しそうに笑う。
「…変なやつ」
「へへへ。あ、なる。チョコ食べる?」
「え、あ、うん」
はい、と渡された食べたことのあるチョコレートの味は、いつもと違ってなんだかよく分からなかった。
昼休みに入り、照屋は委員会があるからと昼ごはんを持ってすぐに図書室へと向かった。
その姿を見送り、自分も昼ごはんを食べ、借りた本の返却と、新しい本の物色に図書室に行こう、と本を持って教室を出れば、「千家くんっ」と後ろから声をかけられ、振り返る。
「羽白さん? どうかした?」
「千家くん。図書室、一緒に行ってもいい?」
「俺は別に構わないけど…」
そう答えた瞬間に、今朝、照屋が言っていた「告白されたんだと思うよ」という言葉が頭の中をよぎる。
「羽白さんは俺といて大丈夫? その…今朝の、男子」
「あ、あ、えと。うん! だい、じょうぶ!」
「そ、か。あ、いや。大丈夫ならいいんだけど」
大丈夫なのか。そう思った瞬間、なぜか、自分がホッとしたことに気がつく。
「…なんで俺」
「千家くん?」
ひょこ、と顔を覗き込んできた羽白さんに、ぶわっ、と顔が一気に熱くなる。
「なん、でもないです」
「うん?」
口元を隠し、思わず顔をそらせば、「千家くん?」と羽白さんが不思議そうな声で俺の名前を呼ぶ。
「と、図書室行こうか」
「え、あ、うん」
大きく息を吸い、そう声をかけた俺を見て、羽白さんはやはり不思議な顔をしながらも、俺の横に並んで歩き出す。
「そういえば千家くん」
「…ん?」
「お昼ごはん、あれだけで足りたの? いつもより少なかったような気がしたんだけど…」
「ああ。あれ? 本当はもう少しあったんだけど、照屋に食べられた」
「え?」
「正確に言えば、多分いま食べてる」
「えええ?」
驚いた声を出した羽白さんに、可愛いなぁ、と思いつつ、思わずくすと小さく笑ってしまう。
「え、だって。あれ?」
「今日、弁当忘れたらしくて。俺の昼ごはんのおにぎり持ってった」
「え、じゃぁ、千家くんお腹空いちゃうんじゃ…」
「ああ、大丈夫。帰りに100円ハンバーガー奢ってもらう約束したから」
心配そうな表情をする羽白さんに、にっと笑って答えれば、きょとんとした表情をしたあと、羽白さんが「仲良しだね、二人とも」とくすくすと笑う。
「仲良しっていうか…なんだろうね?」
「仲良しだと思うよ?」
「まぁ…羽白さんが言うなら」
そうなんだろう、と頷きながら答えれば、ふふ、と羽白さんが楽しそうに笑った。
「で、なんで、怜那とはじろんが居るの?!」
「え、だって、寄り道するっていうから」
「二人とも、駅は遠回りでしょ?!」
「まぁまぁ固いこと言わないの」
「せっかく、なるとアレなコレな話をしようと思ってたのにー!」
「あ、千家、チーズバーガーでいいんだよね?」
「え、ああ」
うん、と頷いている間に、寺岡さんは店内だからと控えめに文句を言う照屋を連れてレジの方へと歩いていく。
「とりあえず、座ろうか?」
「あ、うん」
店内を見渡し、いつも照屋と座る4人席が空いていることに気が付き、腰をおろす。
「ごめんね? ついてきちゃって…」
「いや、別に謝ることでも」
申し訳なさそうに言う羽白さんに、「俺の財布は痛くも痒くもないから」と笑いながら答えれば、ふふっ、と羽白さんが笑う。
「痛いのはオレのお財布!」
「あ、おかえり」
「いいじゃない!ポテトとシェイクくらい。そもそも1個は無料引き換え券でしょ」
「もー、そうだけどそうじゃないんだよ! わかんないかなぁ」
ぷんぷん、と口で言いながら俺の横に座った照屋に、寺岡さんは「はいはい」とため息を混じえて笑いながら答える。
「どうせ男同士の話し合いをするところだったとかなんとか言うんでしょ」
「分かってるなら来るなよ!」
「いいじゃない別に。ね? 千家」
「いや、俺に聞かれても」
「良いって!」
「なるは良いとは言ってないし!」
もー、と言いながら、照屋はもはや諦めた表情を浮かべ、寺岡さんに至っては、「これ帆夏の分ね」とシェイクの1つを羽白さんに渡している。
なんだかんだで息ぴったりだな、この二人、と照屋と寺岡さんを眺めていて、ふと、一つ思い出したことがある。
「寺岡さんと照屋って、幼馴染み…だっけ?」
「そ。怜那、昔っから全然変わらねぇの」
「それを言ったらあんただって同じでしょ」
ああいえば、こう言う。その言葉通りの二人の会話に、感心していれば、「でも、帆夏も幼馴染みといえば、幼馴染みよね」と寺岡さんが照屋に問いかければ、「まぁねぇ」と照屋が頷く。
「でも、それでいったら、なるもはじろんと一時期、小学校でクラスも一緒だったんだし、ある意味、幼馴染みじゃん?」
「…それは…幼馴染みっていうのか?」
何か違くないか? と思わず首を傾げれば、「でも」と羽白さんの控えめな声が聞こえる。
「そうだったら、いいなぁ」
そう言って、目が合った羽白さんが、ふふ、と笑う。
その笑顔を直視した俺は、「あ、うん」と答え、思わず口元に手をあてた。
【6月17日 終】
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