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手を繋いでくれというんだろう。村人たちは微笑ましげに『菊ちゃん』を見つめておりました。けれど、『先生』だけは村の者とは違う表情を浮かべておりました。
わなわなと歯を震わせ、恐ろしい何かを見るように『先生』は『菊ちゃん』を見ておりました。
「あ、あああぁぁああ……!」
震えた叫びをあげたかと思うと、『先生』は『菊ちゃん』から逃げるように来た道を駆け戻っていきました。
村人は唖然としたまま、『先生』の後ろ姿を見ておりました。そして、気がついた時には『菊ちゃん』の姿が、どこにも見当たりませんでした。
『先生』が警察へ自首をしたのは、そのすぐ後のことでありました。『先生』は東京の実宅で娘の「幸子ちゃん」を殺し、村近くの山の中に埋めて隠してしまったのだと、新聞には書かれておりました。
実の娘を殺すなんて、外道のすることだ。
殺人犯がこの村に越して来たなんて。
それがわかっていたら、村に住むことなんて許さなかったのに。
村人は口々に『先生』を罵り、極悪人として後ろ指をさしました。『先生』を慕っていた村の娘も、手のひらを返して怖れ嫌いました。
殺された「幸子ちゃん」を悼んで、村人は山の麓に彼女の慰霊塔を作りました。なぜ殺されなければならなかったのか。なぜ殺してしまわなければならなかったのか。
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